悪夢の序章
入社4日目。
同期との飲み会があり、
自分はとある女性「T」と仲良くなった。
自分には彼女が居た。
20歳で初めて出来た彼女。
こんな自分には一生に最初で最後の彼女だと思っていた。
付き合っていることにはなっていたけれど、
相手には友達としてしか思われていなかった。
2002年の夏に「友達としてしか居られない」と言われた。
すごく悲しかったけれど、
信頼できる相手だし、別れるわけでもないので、
今思えば自分の心は幸せで満ちていた。
毎日休むことなく彼女のことを想って過ごす日々だった。
その2002年、自分は就職活動を始めた。
職場には実家から通えて東京都23区内やその近郊であること、
しっかり研修を受けさせてくれること、
自分の希望する分野の仕事に就くことができること、
それらを条件に見合った会社が小さな「N」だった。
「N」の2003年度の新人は8人。
これでも例年に比べて多いと言われた。
8人のうち、半数の4人が女性だった。
この業界にしては女性の人数が多い。
うち、3人は就職しようと言うのにも関わらず
入社説明会の時から茶髪で、同類にしか見えなかった。
だが、ただ1人は違った。
黒髪のスーツが似合う女性で、見た目もタイプ。
自分はその女性に惚れた。
不思議な苗字だったが、女性の中では最初に名前を覚えた。
その女性は真面目にしか見えなかった。
畑違いの学校から、しかも地方から出てきたその女性。
受け答えもしっかりしていて、優等生だと思った。
頭が良くない自分にとっては、脅威の存在に見えた。
入社後、その女性ばかり注目していた。
しっかり文具を用意してたその女性を見て、
自分はその日の帰りに足りない文具を急いで買い揃えた。
なんらふしだらさを感じさせないその女性に、
自分は益々惹かれた。
付き合えたら良いなと夢のようなことを考えたこともあった。
けれど、自分には彼女がいたし、
現実的に考えればそんな真面目な女性が
自分と気軽に話をしてくれることさえも想像が出来なかった。
何より自分は、
今の彼女が最初で最後の彼女だと考えていたため、
真面目に働いて、お金を貯めて、
彼女に振り向いてもらって、
結婚しようと意気込んで、
仕事にはとにかく真面目で熱くに取り組む姿勢でいた。
なので、その女性のことはライバル視するほうが強かった。
入社後4日目。
飲み会があった。
早くも計画を立て、店に予約を入れていた同期女性2人。
そのうち一人は、その真面目に見えた女性であった。
その行動力と実行性に自分はただ感心させられるばかりだった。
飲み会は嫌いだ。
(いや、嫌いだった。)
いくら入社後の新人同期の挨拶を兼ねた飲み会とは言え、
意味の無い飲酒、その無意味に高い金を払い、
タバコ臭くなり、タバコは健康を害する。
「飲み会」と言うものそのものに全く価値が感じられなかった。
物凄く嫌で、最初は作り笑顔でニコニコしていたものの疲れ果て耐え切れず、
その後はずっと不快な表情をしていたことを覚えている。
不快になったのは他にも理由があった。
あの女性が、飲み会の席ではゲラゲラ笑って机をドンドンと叩いて、
自分に酒を勧めて来たからだ。
「酒が回れば人間変わるものなのか」と飽きれていた。
仕事に取り組む姿勢ではなんらマイナスにはならなかったが、
一女性として、人としてはやや見損なった感じではあった。
仕事上の最大のライバルになるであろうその女性に、
負けてたまるものかとの思いで飲み会でも真面目を貫き通すはずであったが、
いい加減絶えられなくなって来て、自分は吹っ切れた。
その女性も飲まそうとしつこかったので、
パフェみたいにアイスののったアルコールを頼んだ気がする。
気分は大分楽になった。
その女性のことが気になっていた自分は、
嫌いな飲み会とはおさらばせずに、
その女性と共に二次会に参加した。
気になるとは、惚れたからと言うことよりも、
その真面目に見えて見た目も良いその女性の人間性や、
そんな人間がどうして存在できるのかと言う不思議に迫りたかった。
その女性の思考を知りたかった。
二次会は8人中4人が参加した。
恋愛の話をしたことを覚えている。
自分はその女性に対し「○○さんの恋愛話が聞きたい」なんて言ったが、
「箱入りだから」と言われ、話をはぐらかされた。
その女性のことを真面目にしか見えなかった自分は、
箱入りであるとは、当然今まで異性との付き合いは無いものだと考えた。
あったとしても、結婚前に肉体関係を持つような人であるとは
全く思えるわけがなかった。
自分の中で、“その女性は真面目だ”と証明する返答でしかなかった。
1人は帰ると言うので、自分も帰ることにした。
終電ギリギリであったが、
ダイヤ通り電車が来れば間に合った。
そろそろ終電だと言う時間の駅。
自分は、その人の多さに驚き、乗り過ごした。
けれど、次の電車に乗れば、乗換駅で終電に間に合った。
しかし、次の電車はダイヤ通りには来なかった。
家に帰れなくなってしまった。
仕方が無いので、まだ飲んでいる2人のもとに戻った。
その後、1人は寝てしまった。
自分とその女性2人だけになってしまった。
社交的とは反対の性格の自分、
高校では2年生から2年間男子クラス、
その後も女性が1人しか居ない学校に3年間居たため、
女性との出会いは趣味のサイトのオフ会で出会った
「彼女」ぐらいしか無かった。
「彼女」は真面目で清純な人だったし、
自分も(今、周りと比較してみると)真面目であるため、
テレビで出てくる渋谷とかの女子高生は極稀な人たちで、
ほとんどの人が真面目で清潔な人だと思っていた。
血液型による性格の違いなども全く知らなかった。
自分の心は純粋だった。
2人きりになってしまったその場。
これから最大のライバルとなるであろうその女性に対し、
警戒心は強く心は開ける状況ではなかった。
しかし、話をしてみると意外に趣味が合っていた。
話しやすい相手だった。
すごく盛り上がった。
社交的ではない自分が、
今までに経験をしたことが無いほど沢山の話をした。
そう易々と心を開かない自分が、
その女性には心を開いた。
惚れた人と仲良くなったことよりも、
(性別問わず)人としてこんなにも心を開ける人が居たことが
何よりも嬉しかった。
幸せを感じた。
そして、そのO型の女性「T」さんと仲良くなった。
まさかその時は、
自分の話に合わせて居てくれたなんて想像もしなかったし、
世の中ではO型の人は社交的で調子が良いと言われているなんて
知りもしなかったから……。
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